うつ病は、精神的・身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく機能しなくなる精神疾患です。くわしい発症原因は分かっていませんが、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンといった神経伝達物質のバランスが崩れており、それにより感情や意欲をコントロールできず、気分の落ち込み、意欲低下や眠れない、だるいといった症状が生じると考えられています。日本では、一生のうちにおよそ100人に6人が経験し、女性の発症が男性より1.6倍多いことなどが報告されています。
うつ病では、次のような症状が見られます。
うつ病は高血圧や糖尿病のように、血液検査などを行ってすぐに分かるものではありません。どのような症状がどのくらい続いているのかを医師が問診し、結果に応じてうつ病かどうかを判断します。
うつ病の判断によく用いられるのが、「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」と「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10版」です。たとえば「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」では、次のような質問に答えてもらいます。
「ほとんど毎日、一日中気分がずっと落ち込んでいる」もしくは「ほとんど毎日、一日中ずっと何に対する興味もなく喜びを感じない」の症状があり、なおかつ全部で5つ以上の症状に当てはまる場合は、うつ病の可能性があると診断されます。
うつ病という病気が単体で発症していることもありますが、ほかの病気が原因でうつ状態となっている方も意外と少なくありません。以下のような疾患でも、うつ状態となる場合があります。
これらの病気がある方で「毎日が楽しくない」「疲れやすい」などの症状が続いている場合は、うつ状態である可能性があります。早めに担当医に相談するか、精神科や心療内科などを受診して相談してみましょう。
うつ病の治療では、まずはしっかり休養がとれるような環境調整が大切です。休学や休職制度を利用し、学校や職場からいったん離れて過ごしたり、入院という環境に身を置いたりすることで、症状が楽になる場合もあります。同時に、脳内の神経伝達物質のバランスを整える抗うつ薬を用いた薬物療法を行います。
ほかにも、患者さん自身の思考パターンやものごとの受け止め方に働きかけ、気持ちを楽にする治療法として、認知行動療法、対人関係療法などの精神療法があります。さらに、うつ病のより専門的な治療として、脳に電気刺激をあたえる「修正型電気けいれん療法」や、強い光を浴びせる「高照度光療法」などが行われることもあります。
近年、わが国においては、うつ病により医療機関を受診する人が増加しており、はたらく人の多くがうつ病などのメンタルヘルス不調に陥っています。その背景には、急激なIT化、能力中心主義の評価制度といった社会の変化や、昇格によるプレッシャー、人間関係といった個人的な要因がストレスとなって不調を来す場合もあるようです。
厚生労働省の労働安全衛生調査(2020年・実態調査)によると、過去1年間にメンタルヘルス不調を理由に連続1ヵ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所割合は、9.2%にも上ります。
そこで近年、一定規模以上の職場では「ストレスチェック」が義務付けられ、うつ病などの精神疾患を理由に休職している労働者に対し、職場復帰に向けたリハビリテーション(通称リワーク)を実施する医療機関、地域障害者職業センターなどが増えるなど、メンタルヘルス不調に対するサポートは進みつつあります。
ただ、休職が長期化したり、勤務体制や人間関係、企業への根強い不安が残ったりしたままでは、本格的な復帰は難しくなります。自宅での療養とリハビリテーションで安定しても、復職したとたんにストレスがかかり、ふたたびメンタルヘルス不調となって再休職に追い込まれるケースは少なくありません。
休職期間が満了すると、退職または解雇となる可能性もあり、年齢やその人のスキル、社会情勢によっては再就職できず、社会復帰を果たせないまま自宅にひきこもってしまう可能性もあります。
するとひきこもりの事実そのものが再就職のハンディキャップとなって、ふたたび社会につながることが容易でなくなります。長期化して中高年、老年期を迎えるケースも増えており、とにかく早い段階で介入を行うことが必要です。
「うつ病の治療を続けているのに完治しない」「どれくらい治療を続ければいいの?」と思われている方もいるでしょう。抗うつ薬の種類によっては、そもそも効果が出るまで数週間かかるものもあります。
薬を飲んだからといってある日突然きれいさっぱりうつ病が治るわけではありません。少しずつ症状を改善していき、寛解を目指していきます。自分に合う薬が見つかるまでに時間がかかるケースもありますので、焦らずゆっくり、医師と相談しながら治療を続けていきましょう。
本人が医療機関を受診することが難しい場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。