せん妄とは、注意力や思考力が低下している状態のことです。「せん妄」という病気があるわけではなく、一般に精神状態に異常を来しているものを指して呼んでいます。一時的な症状で終わることもありますが、数ヶ月以上もせん妄の状態が続き、そのまま昏睡状態に陥るケースもまれにあるため注意が必要です。
認知症と違って、多くは一時的な症状で終わります。つい数分前までせん妄状態だった方が、今は問題なく会話をこなしているという状況は珍しくありません。起きているにもかかわらず眠っているかのようなぼーとっした状態になったり、幻覚が見えたり、イライラや興奮がおさまらずに攻撃的になったりなどさまざまな症状があります。せん妄の原因を取り除くことで多くはすぐに回復することが可能です。
入院患者では15~50%の方にせん妄が見られるといわれています。入院中にせん妄が起こった場合は、治療が遅れると入院期間が長引いたり院内感染が増えたりすることがわかっているため、早急な対処が必要です。
せん妄になる原因には多くのものがあります。よく見られるのが、薬剤や脱水、感染症などによるせん妄です。
せん妄を起こす可能性がある薬剤としては、麻薬性鎮痛薬や睡眠薬、抗不安薬や抗ヒスタミン薬などが知られています。薬剤を服用しているときだけでなく、中止したときにも起こる可能性があるため、注意して状態を見ておくことが大切です。高齢者では薬の種類が多く、さらに腎機能や肝機能が低下によって薬の影響が強く出やすいことから、若い方よりせん妄が起こりやすくなります。
脱水によって電解質のバランスが崩れることもせん妄を引き起こす原因です。電解質のバランスが崩れると神経伝達がうまくいかなくなり、意識障害などを起こしやすくなります。高齢者では体温調節機能が衰える影響で水分不足になりやすいため、意識的に水分摂取を行うことが大切です。
尿路感染症や肺炎、インフルエンザなどの感染症もせん妄を引き起こすことがあります。炎症が強く起きたり、高熱によって脱水を起こしたりすることなどが原因です。
とくにICU(集中治療室)に入院されている方は、せん妄が起こりやすい傾向にあります。昼夜問わずアラームやモニターなどの音が聞こえてくるため、睡眠不足になってせん妄を起こしやすくなるのです。手術によるストレスや、手術中に使われる麻酔薬なども原因になります。
不眠の症状が出たり、寝ている間でも落ち着くことがなく体がよく動いたりする症状です。起きているのに寝ているかのようなぼーっとした状態になったり、昼夜逆転したりすることもあります。
目の前にはないものが見えたり、現実には起きていないことをあたかも経験したかのように話したりする症状です。存在しないはずの虫や動物が見えたり、現実的に考えてありもしない妄想を話したりするため、客観的に見ても様子がおかしいとすぐにわかります。
自分がいる場所がわからない、時間がわからない、つい先ほどまで自分がなにをしていたのかが思い出せないなどの症状です。出かけた先でせん妄を起こし、帰り道がわからなくなる方もいます。
イライラや不安感が強くなったり、いつもより大声で話したり攻撃的になったりなどの症状が代表的です。人格が変わったかのようになることも多く、周囲の人へ危害を加えてしまうこともあります。
手が震えたり体を思うように動かせなくなる神経症状が出ることもあります。神経症状はアルコールが原因でせん妄になる方で見られやすいことが特徴です。
せん妄は、原因に合わせた治療が行われます。脱水の場合は点滴などを使って水分補給を行い、入院が原因の場合はベッドから起き上がって体を動かせるようにしたり、リハビリを行ったりすることが効果的です。薬剤が原因の場合は、薬の投与量を減らしたりほかの薬に変えたりすることで改善を目指します。イライラしたり攻撃的になったりする方には、抗精神病薬など精神状態を落ち着かせる薬も選択肢となるでしょう。
せん妄は、躁うつ病や統合失調症などの精神疾患と似たような症状が出ることもあり、個人で原因を判断するのは非常に難しいものです。せん妄と思われる症状が出た場合は基本的に医療機関での治療が必要となります。しかし、患者さんによっては通院をひどく嫌がることもあり通院が困難なこともあるでしょう。そのような場合は、在宅医療の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
早急な治療が必要な場合はすぐに受診することが大切ですが、緊急性がない場合は地域相談支援センターや保健所などに相談してみてください。必要に応じて医療機関の紹介やサービスの提供を受けられます。
すぐに受診するべきか判断が難しい場合は「♯7119(救急安心センター事業)」に電話をしましょう。医師や看護師が状況を把握し、受診が必要かどうかを判断してくれます。