自律神経失調症とは、その名の通り、体を働かす自律神経のバランスが乱れるために起こるさまざまな不調を指します。
自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」から構成され、「交感神経」は体を動かすとき、「副交感神経」は体を休めるときに働き、真逆の役割を果たしています。いわば車のアクセルとブレーキのような関係性で体の状態をコントロールしているため、このバランスが崩れ、交感神経の働きが高まった場合に自律神経失調症になると考えられています。
原因は、不規則な生活や過度なストレス、環境の変化、女性ホルモンの生理的な変化などじつにさまざまで、これらが複雑に絡み合い、自律神経のバランスを崩すと考えられています。
ただし、「自律神経失調症」そのものは医学的に正式な名称ではなく、定義や診断基準もありません。そのため、医療現場では、患者さんがさまざまな不調を感じており、症状にみあう検査異常は認められないものの、その症状を苦痛と感じて日常生活に支障をきたしている場合、自律神経失調症として対応することが多いようです。
自律神経は全身の器官をコントロールしているため、バランスが崩れることで非常に多彩な症状があらわれます。人によって症状は異なり、良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。身体症状だけでなく、不安、抑うつなどの精神症状を伴うこともあります。
ひとくちに自律神経失調症の治療といっても、不調の症状や想定される原因により、対応は異なってきます。
まずは、日常生活において睡眠リズムを整え、規則正しい食習慣やじゅうぶんな運動など、生活習慣を整えることが重要です。ストレスの関与が大きいと考えられる場合には、自分自身の考え方のクセを知り、ストレスをため込まないようにすることや、過度な緊張を取る目的で呼吸法などのリラクゼーション法を習得することが効果的な場合もあります。場合によって、不安や抑うつの症状に対し、薬物療法が適していると判断されることもあります。
また、身体症状に対しては、痛みがあれば鎮痛薬、便秘が続く場合は便秘治療薬、眠れなければ睡眠薬といった具合に、患者さんの苦痛を軽減するための薬物療法が行われます。女性ホルモンの生理的な変化が認められる場合は、更年期障害としてアプローチし、減少したエストロゲンなどを補充するホルモン補充療法を行われることもあります。こうした対症療法で患者さんが効果を実感できれば、症状による苦痛が軽減され、ストレスや不安が軽くなるといった好循環も期待できます。
自律神経失調症の患者さんで辛いのは、さまざまな症状に悩まされながら、周りの理解を得にくい点です。医療機関で検査を受けても異常は見つからず、「どこも悪くないので、あまり気にしないように」などと言われ、さらに不安になるのはよくあるパターンです。また、周囲の人から「気のせいではないか」「甘えている」などと受け止められ、気分が落ち込み、ますます不調を来すなど悪循環に陥りがちです。
理解を得られないまま無理して働き続けると、仕事に悪影響を及ぼしたり出社できなくなったりして、社会生活に大きな支障を来すようになります。二次的にうつ病や不安障害などの精神症状を合併して、最悪の場合はひきこもりとなるケースも少なくありません。
いったんひきこもりになると、ふたたび社会につながることは容易でなくなります。長期化して中高年、老年期を迎えるケースも増えており、とにかく早い段階で介入を行うことが必要です。
自律神経失調症の患者さんでは、過去の経験から治療をあきらめているなどして、本人が医療機関を積極的に受診することが難しいケースもあります。その場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。