医療法人社団 心翠会
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8050問題

8050問題とは

8050(はちまる・ごうまる)問題とは、80代の親が50代の子どもの生活を支えるために経済的にも精神的にも強い負担を請け負うという社会問題のことをいいます。子どもが自立した生活を送れないため、80代の親の年金を頼りに生活しているケースが多く、困窮した生活を送っている方が少なくありません。年金がなくなると生活できなくなるという理由で、親が亡くなった後も死亡届を出さずに年金を受け取り続け、遺体遺棄として扱われた事件もこれまでにいくつもありました。

8050問題が可視化されるようになったのは、比較的最近のことです。2017年に40歳以上で引きこもっている方の人数が把握されるようになったことがきっかけで、高齢の親が子どもの面倒を見るために逼迫した生活を送っていることが明らかになっていきました。

8050問題が起こる原因

8050問題が起こる原因としては、以下のものが挙げられます。

引きこもりの高齢化

もっとも大きな原因は、引きこもりの高齢化です。引きこもりといえば、以前は10代や20代など学生や社会に出たばかりの方でよく見られていました。しかし現在は、中高年者の引きこもりが目立つようになってきたのです。

厚生労働省の定義では、6か月以上にわたって家に閉じこもり続けている状態を引きこもりと呼びます。自分の部屋からほとんど出ない、部屋から出ても家の外には出ない、自分に関心にある用事があるときだけ出かけるといった様子が続いているようでしたら、引きこもりの可能性があるでしょう。

40代や50代の未婚者で親と同居している方は1995年時点で112.6万人でしたが、2010年には263.5万人に増えています。

(参考 地域包括支援センターにおける「8050」事例への対応に関する調査 報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000525388.pdf

ただし、未婚で親と同居しているからといって必ずしも8050問題に発展するわけではありません。2019年に内閣府が調査した結果によると、40歳から64歳で引きこもり状態にある方の数は全国に61.3万人いると推計されています。こういった引きこもり状態の方がとくに8050問題に陥りやすいと考えられるでしょう。

40代や50代の貧困化

40代や50代で未婚かつ親と同居している方は、同居していない方と比べて年収100万円未満であることが多いとわかっています。非正規社員が54.3%、無職が39%を占めていることからもわかるとおり、貧困のために親と同居せざるを得ない状況になっているのです。

(参考 令和 3 年度生活困窮者自立支援制度人材養成研修 ひきこもりの実態と社会的背景・要因の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000930624.pdf

親が老化や病気で動けなくなれば、子どもも一緒に共倒れしてしまう危険性が高いため、大きな問題となっています。

親の介護

親を介護するために、フルタイムでの勤務が難しくなり子どもが貧困化するケースもあります。正社員から派遣やパートにならなければ仕事と介護を両立できない状況になるため、収入の低下を避けることができないのです。結果として親の年金に頼りながら生活することになってしまいます。

親が世間体を気にして子どもの引きこもりを隠している

「周りに子どもが引きこもっていることを知られたくない」と考える親は少なくありません。子どもが引きこもっていることを恥ずかしく感じたり後ろめたく思ったりすることで、存在を隠そうとする親もいます。このような考えをもつ親と同居すると、子どもはますます外に出る機会を失います。

また、子どもの存在を隠そうとすることにより、必要な支援を受けられなくなることもあるでしょう。8050問題は子どもに問題があると考えられることもありますが、実は親の影響によって自立が妨げられている例もあるのです。

親と同居する無業者が増えている

親と同居する未婚の子どものことを、かつては「パラサイト・シングル」と呼んでいました。当時は親元で暮らすことで豊かな生活を送る人々のことを指していましたが、現在はお金に余裕がなく同居しなければ生活できない方のことを指す場合が多いでしょう。

40代や50代で未婚の状態で一人暮らししている方は、1995年には120.6万人でしたが、2010年には206.7万人に増加しています。このままいくと、2035年には男性の約30%、女性の約20%が未婚で親と同居することになるそうです。結婚しない理由は人それぞれですが、経済難のため結婚できない方もいます。子世代の経済難が8050問題を引き起こしているとい言っても過言ではありません。

8050問題には病気が隠れていることもある

引きこもっている40代や50代の方のなかには、精神疾患を抱えている方も少なくありません。「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、以下のような疾患が引きこもりの原因になる可能性があるとしています。

精神疾患のため10代や20代から社会に出られず、そのまま親と同居している方もいるようです。子どもが精神疾患であることを親が認めようとせず、十分な治療を受けさせず社会から隔離されている方を見かけることもあります。

8050問題を解決するには

支援を利用する

国によってひきこもり支援推進事業が行われており、現在は全国に「ひきこもり地域支援センター」が設置され、必要な支援を受けられるようになっています。精神保健福祉士や臨床心理士などの資格をもつ方が相談にのってくれるサービスです。年齢制限によって就労支援を受けられなかった方でも適切な支援を受けられます。

平成21年から始まったひきこもり地域支援センターの設置のほか、平成25年からは市町村において「ひきこもりサポート事業」も開始されました。ひきこもりサポーターを派遣したり、ひきこもり状態にある方が安心して過ごせる環境を作ったりする事業を行っています。このような支援をうまく活用することで、ひきこもり状態を改善に向かわせることができるでしょう。

生活困窮者自立支援制度を利用する

働きたくても働けない、親の介護で手が離せないなどあらゆる理由により困っている方を支援するサービスです。支援プランを作成してもらい自立に向けての一歩を踏み出す手助けをしたり、金銭的な支援を受けたりすることができます。

重層的支援体制整備事業

令和3年から、重層的支援体制整備事業が開始されました。市町村が主体となり、包括的なサポートを行うことが目的で設置された事業です。属性や世代を問わず支援を受けることができます。

精神疾患の治療を行う

精神疾患が疑われる場合は、まずは適切な治療を受けることが大切です。うつ病やパニック障害など、多くの精神疾患は自然に治すことが難しいものもあります。風邪のように時間が経てば完治するものではないため、医療機関で治療を受けるようにしましょう。

必要な人に、必要な医療を

8050問題が起こる理由はさまざまです。精神疾患を患っているのに適切な治療を受ける機会がなく、社会に出られない方も少なくありません。何かしらの病気が原因と考えられる場合は、まずは医療機関を受診するところから始めましょう。

受診のために外出するのが難しいと感じる方は、在宅医療の利用も検討してみてください。地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、適切な援助や医療の提供を受けることが可能です。

医療法人社団心翠会では、ご本人およびご家族が困っていながらも通院が困難な方を対象に、精神科医療を基盤とした在宅医療を行っています。