医療法人社団 心翠会
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ADHD(注意欠如・多動性障害)

ADHDとは

ADHD(注意欠如・多動症)は、発達障害の一種で、「不注意」「多動・衝動性」などの症状を特徴とする疾患概念です。くわしい発症原因は分かっていませんが、ADHDの脳内ではドパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が不足しており、それにより特徴的な症状が生じると考えられています。有病率は報告によりバラつきがありますが、学齢期の小児において3~7%程度と推定されています。

ADHDの分類

ADHDとひとくちに言われることが多いですが、症状の現れ方によって以下の3つに分類されます。おもな分類は次のとおりです。

不注意優勢型は、名前のとおり不注意が多い状態を指します。学校に行くときにいつも忘れ物をしてしまったり、些細なミスを何度も繰り返してしまったりするなどの症状が多いでしょう。

一見すると不注意な部分が目立ちますが、何かに熱中しているときは話しかけても反応がないことも少なくありません。また、物事を最後まで完遂するのが苦手だったり片付けができなかったりすることもよくあります。

多動性・衝動性優勢型は静かにじっとしていられないタイプのADHDです。授業中に手足をもじもじと動かしたり、座っていられず立ち上がってしまったりなどの症状が見られます。誰かと会話するときに自分主体で喋りすぎたり、順番を待てず割り込んでしまったりなどもよくある症状です。

不注意優勢型と多動性・衝動性優勢型の両方の特性をもつADHDを混合型と言います。忘れ物が多く順番を守れない、じっとしていられないなどの症状が見られたら、混合型の可能性があるでしょう。

ADHDの原因

ADHDを発症する原因は、今のところはっきりとは分かっていません。現時点では、前頭葉の働きが生まれつき弱いことが関係しているのではと考えられています。生まれつきのものなので、育て方の影響でADHDを発症することはありません。「自分の育て方が悪かったのでは」と気にしすぎないようにしましょう。

前頭葉は物事を考えたり行動をコントロールしたりするときに働く部分です。思考や判断、注意や計画などを司る前頭葉がしっかり働かないことにより、ADHDの症状が出ると言われています。

このほか、脳内の神経伝達物質が不足しているという説も有力です。シナプスが情報のやり取りを行うためには、ノルアドレナリンやドパミンなどの神経伝達物質が必要になります。ADHDの方では、これらの神経伝達物質の量が少ないため、シナプスによる情報伝達がうまくいかないのです。

ADHDの症状

ADHDでは、次のような症状がみられます。

不注意

多動性

衝動性

ADHDの治療

ADHDの患者さんは、みずから症状をコントロールすることが難しく、無意識に不注意や多動・衝動性の症状が出てしまいます。そのため日常的に周囲から非難され、叱責され続け、「みんなが普通にできることができない」という否定的な自己イメージを持つようになります。

やがて症状の特性から日常生活や対人関係の困難が大きくなり、二次障害としてうつ病や不安障害などの精神疾患を合併したり、問題行動に至ったりするケースも珍しくありません。

そのためADHDの治療は、特徴的な症状を軽減し、行動をコントロールしやすくする「薬物療法」と、対人関係能力や社会性を身につけるための「心理社会的治療」を組み合わせるのが効果的とされています。二次障害である精神疾患に対しても、それぞれの症状にあわせた治療・介入を行い、ADHDの特性から生じる困りごとや日常生活の困難を軽減していきます。

ADHDをもつ子どもとの接し方

何度も同じことで怒ってしまったり、つらく注意してしまったりしている方もいるかもしれません。しかし、ADHDの子どもに注意を繰り返すと、「自分はダメな人間なのかもしれない」と自信を喪失させる原因となります。

上記のことに気をつけるだけでも、ADHDの子どもは日々の生活を送りやすくなります。とくに、できることに注目して褒めてあげることは、子どもが自信をもつためにも大切なことです。ついつい注意ばかりしてしまうかもしれませんが、できるだけ肯定的な言葉をかけてあげるようにしてみてください。

大人のADHD

ADHDをはじめとする発達障害は、思春期・青年期以降になってはじめて、二次障害をきっかけに診断されるケースがあります。小児期には、その特性について周囲が「苦手なことが多いんだな」「個性的な子だ」と捉える場合もあり、本人も何とか高校・大学までやり過ごせても、その後の就職でいっきに社会適応が難しくなって二次障害を呈する、といったパターンです。

就職先では、ADHDの特性も「しょっちゅう遅刻する」「整理整頓ができず、ミスが多い」「協調性に欠ける」といったトラブルと化し、上司からは叱られ、否定的な評価を受け、周囲から孤立しがちです。しだいに劣等感や無気力、孤立感、疎外感が募り、うつ病や不安障害などの精神症状を合併して、最悪の場合はひきこもりとなるケースも少なくありません。

ひきこもりとは、年齢相応の社会経験を積む機会を失うことであり、ひきこもりの事実そのものが再就職のハンディキャップとなって、ふたたび社会につながることが容易でなくなります。長期化して中高年、老年期を迎えるケースも増えており、とにかく早い段階で介入を行うことが必要です。

必要な人に、必要な医療を

本人が医療機関を受診することが難しい場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。

医療法人社団心翠会では、ご本人およびご家族が困っていながらも通院が困難な方を対象に、精神科医療を基盤とした在宅医療を行っています。