過敏性腸症候群とは、検査で腸に異常が認められないにも関わらず、便秘や下痢を繰り返す疾患です。くわしい発症原因は分かっていませんが、ストレスや暴飲暴食、過度の飲酒、不規則な生活などにより内臓神経が過敏となって症状が引き起されると考えられています。また、細菌やウイルスにより感染性腸炎にかかり、回復した後に過敏性腸症候群になるケースもあるようです。有病率は報告によりバラつきがありますが、およそ10%程度と推定されており、男性に比べ女性で多いことが分かっています。
過敏性腸症候群では、次のような症状がみられます。
過敏性腸症候群の治療では、まずは生活習慣の改善を行います。規則的な食生活を心がけ、暴飲暴食や刺激物、脂肪分の多い食べ物を避け、アルコールは控えめに、食事バランスに注意することが重要です。
生活習慣を改善しても症状が軽減しない場合は、消化管機能調節薬やプロバイオティクス(ビフィズス菌や乳酸菌など)、あるいは高分子重合体といわれる便の水分バランスを調整する薬剤などが用いられます。ほかにも、便秘が中心の場合は粘膜上皮機能変容薬、下痢に対してはセロトニン3受容体拮抗薬など、症状にあわせて作用の異なる薬剤を服用します。
また、過敏性腸症候群では、症状にストレスや心理的な変化が大きく関連していると考えられる場合があり、認知行動療法やストレスマネジメント、対人関係療法といった心理療法などが効果的である場合もあります。
過敏性腸症候群が辛いのは、腸に炎症や腫瘍などの問題はなく、命に別状はない病気であるにもかかわらず、患者さんの日常生活の質を大きく低下させるという点です。
便秘が続くのは気分が晴れず、日常生活で活気が失われます。また、いつくるかわからない突然の腹痛や下痢の症状があると、外出したり、人と会ったりすること自体がプレッシャーとなり、電車やバスなど公共機関の利用もためらわれるようになります。友人との約束や仕事のアポイント、大切な試験、仕事のアポイントで激しい腹痛と便意に襲われることもあり、日々、不安の連続となります。
しかも、進学や就職などを機に症状を起こすケースが少なくなく、せっかくあたらしい環境に身を置くことができても、「またお腹が痛くなったらどうしよう」「トイレが無い場所に行くと失敗するかも」という不安から、外出を控えるようになるケースは少なくありません。
症状への不安から外出できないままでいると、やがて学業や社会生活そのものが困難となり、自宅にひきこもってしまう可能性もあります。するとひきこもりの事実そのものが再就職のハンディキャップとなって、ふたたび社会につながることが容易でなくなります。長期化して中高年、老年期を迎えるケースも増えており、とにかく早い段階で介入を行うことが必要です。
過敏性腸症候群の患者さんは、「単にプレッシャーに弱いだけ」「お腹の調子が悪いのは体質だから」と考えがちですが、まずはかかりつけ医や近所の内科系クリニックに相談することが重要です。そこから、必要であれば他の消化器系との鑑別のために内視鏡検査を実施し、ストレスの影響が強いときや気持ちが不安定な場合は、心療内科や精神科での治療が適している場合もあります。
本人が医療機関を受診することが難しい場合は、まずは地域相談支援センターや保健所といった公的機関に相談することで、専門機関につながり、個々のケースに合った援助や医療の提供を受けることが可能です。