「医療倫理」と「継続性」を念頭に地域に精神科医療を提供

心翠会は訪問診療、精神科訪問看護を行う事が出来るように活動しております。かつて精神科の医療は外来に通うか入院するかの二択でした。しかし、入院するほど悪くはないけれど、自宅を出られない、公共交通機関を使えない、待合室で待てないなど、幾つものハードルを越えられずに医療を受けられない方も多くいました。そんな外来と入院の中間で苦しむ患者様を助けることにはとても大きな意義があります。

2005年に医療法人社団心翠会を設立して川崎市、南西部を中心に4ヵ所の診療所を設置して、在宅精神科医療を行なっております。医療提供側からアクティブに動いて地域の患者様にアプローチしていくという形態は以前にはほとんどありませんでしたが、世の中の変化に対応しながらも色々な試行錯誤を重ね、地域の患者様に医療を提供してきました。

私たちが活動していく上で大切にしてきたのは「医療倫理」と「継続性」の2点です。精神疾患を患っている方は判断力や思考力が落ちている可能性がありますので、そこにつけ込み不利益を与えるようなことは絶対にあってはなりません。それと我々が提供する医療はその名の通りご自宅というプライベート空間を訪問して行うものですから、細心の注意を払う必要があります。

そうやって常日頃からモラルを持って患者様と付き合うことは、巡り巡って私たち自身を守ることでもあるので、この点はすべての職員に共有し、徹底してもらっています。もう一つの「継続性」というのは、患者様とスタッフの関係性の話だけではなく、各診療所と患者様、各診療所と地域など、より広い意味で継続的に関係を築いていくことが、精神科医療を行う上で欠かせないものだと考えています。

ある日突然点と点がつながり、線を描き出す仕事

私は理事長という立場にはいますが、「臨床家は臨床が命」という信念を持っているため、実は今でも頻繁に往診に出ています。その分の管理的な業務は他のスタッフに任せているため迷惑をかけてしまっている部分があるかもしれませんが、それだけこの仕事において、患者様と直接接点を持てる現場は大切なところだと思っているのです。

医師という人間はどうしても病気の勉強から入るため、ついつい患者様との距離感を上手く掴めないことがあります。しかし臨床の現場で生身の患者様と接していると「患者様も人間なんだ」と感じることができます。もちろんそれは当然のことではあるのですが、一方で私たちのような職業のものは絶対に忘れてはならないことだと日々感じています。その意味でも、自分たちがやっている訪問診療、訪問看護という取り組みは、きっと正しいものなんだと胸を張って言うこともできます。

患者様と長期的な関係を築いていると不思議なこともあります。その時には理解できなかった患者様の言葉や行動が、数年後のある日点と点がつながって線を描き出し、唐突にかつての言動の意味がわかるということが起こることがあるんです。かつて「名医は一瞬で患者のことを見抜け」と言われていましたが、こうした精神科医療ならではの事態に遭遇すると感動を覚えることもありますし、コツコツと時間を重ねて患者様との関係性を構築していく楽しさのようなものもあるんです。ですから、この領域に携わる人に対しては、日々の仕事が単調に感じられても時間が経つとその意義が見えてくるので、粘り強く関わっていきましょうと言いたいですね。

つらいこともあるからこそ、やる気を求めたい

我々が求めるのはやる気を持った人材です。私たちの仕事は意義があるものですが、現場に出ていくとつらいことがたくさんあるのも事実です。訪問をしても拒否されたり、罵倒されたり、被害妄想の対象になることだってあります。そのような患者様と継続的に向き合っていくのは簡単ではありません。「この仕事をやりたい」という熱意はもちろん必要ですが、そのための覚悟を持ち、医学的な知識を身に付けるための勉強も欠かせないということを理解してもらいたいと思っています。

それから、私たちは複数のスタッフと連携しながら患者様と関わっていきます。誰か一人の思い込みで突っ走るわけには行きませんし、自分がいいと思っても周りから見たら良くない接し方をしたり、あるいはその逆のことが発生したりもします。そうした状況の中で個々のスタッフが最大限能力を発揮していかなくれはならないので、高い協調性も求められていきます。

お金のために無理に営業をしたり、自分の仕事に自信を持てなかったりするのはつらいものですが、我々の仕事は社会貢献できるものですから、そういった不安には無縁だと自信を持って言えます。そのような形で仕事に関わっていきたい方はぜひ応募してみてください。

医療法人社団心翠会　理事長　飯田茂